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実践する思考

主に社会科学と教育に関して、また読んだ本の書評も書いていくつもりです。

安定した政治のための工夫

アメリカでは大統領選挙の真最中である。ドナルド・トランプ氏が共和党の正式候補となり、民主党の正式候補となったヒラリー・クリントン氏と激戦を繰り広げている。世界最強国家の首長を決定するだけあって、アメリカ国内だけでなく世界中から、次のリーダーが誰になるのか注目を集めている。そして、太平洋を隔てた日本でもリーダーの選出方法に関する議論がなされている。それが首相公選制である。

 

首相公選制とは、行政府の長である内閣総理大臣を国民が直接選出する制度である。小泉元首相や橋下徹大阪市長が導入を盛んに主張したことで、国民的議論に火が付いたように思う。賛成意見の多くは、より民意を反映するために国民が首相を直接選ぶべきというものだ。一方、反対意見もあり、候補者が人気取りに終始し、十分な政策論議がなされないといった声もある。実際、中南米では大統領などが独裁者と化し、政治が腐敗してしまった国もある。

 

しかし、国家元首を直接選ぶアメリカでは大きな混乱などなく、政治状況も安定しているように見える。思うに、アメリカの政治状況が安定しているのには、制度的な背景があるのではないか。一つには権力分立が徹底しているという点、もう一つは選挙期間が約一年間とかなり長い点だ。

 

権力分立の徹底とは、立法府・行政府・司法府の三権で厳しい監視と抑止が相互になされているということである。大統領は国民の直接選挙を通じて選出されるため、民主的正当性が強く、強大な権力がある。例えば、議会に対する拒否権や条約締結権を保持している。しかし、議会にも強い権限があり、大統領が結んだ条約締結の同意権や弾劾裁判を設置することで非行のあった大統領を罷免することができる。このように大統領が独裁化しないような制度的工夫がなされており、また、裁判所は違憲立法審査権を持っているため、立法権司法権に対する司法権の優位が制度化されている。三権が相互に抑制しあうことで、いずれかの機関が独裁化しないようになっている。

 

選挙期間の長さも政治状況の安定に寄与している。アメリカの大統領選挙は約一年間かけて行われる。まず、政党ごとの候補者争いである予備選挙が行われる。予備選挙には7,8か月ほどの期間を要し、政党ごとの候補者が決定した後に、各政党の候補者同士が争う本選挙が行われる。本選挙は二か月ほどかけて行われる。

 

こうした選挙期間の長さは、有権者候補者を認知し、また候補者について学ぶ時間を提供している。さらには、予備選挙と本選挙に分かれているために、有権者が節目ごとに候補者選びを意識する制度的工夫がなされている。選挙期間の長さによって有権者候補者について十分に学ぶことができ、十分な政策論議ができ、一時の熱情ではなく冷静に候補者を選ぶことができる。そして、段階ごとの選挙方式によって、有権者が選挙に興味を失わない工夫がなされている。長い時間をかけて選ばれた候補者は民意をより反映しているのだ。

 

厳格な権力分立と長期間の大統領選挙の存在が、アメリカに安定した政治状況をもたらしている。建国者の巧みな制度設計によって、アメリカが国家元首を直接選出する方法を採用していても、大きな混乱がないといえよう。さて、次の大統領は誰なのか、遠い日本に住む私も興味津々である。