実践する思考

政治学や経済学の知見をもとに、歴史や時事問題に関して考えたことをつぶやきます。

【書評】ヒルビリー・エレジー②

 人は一人では生きていけない。衣食住はおろか仕事をするにも、つながりがあってこそ可能なのだ。ましてや、社会的な成功であったり自己実現であったり、衣食住以上のものを実現しようものならば、個人の力だけではほとんど不可能といっていいだろう。

 

 本書に出てくるヒルビリーアパラチア山脈周辺に住み着いたアイルランド系の子孫)の家庭はどこも問題を抱えている。10代での妊娠や薬物依存、日常的な家庭内暴力、失業による貧困など彼らの生活は壮絶である。こうした家庭に育った子供は何らかの問題を抱えている可能性が非常に高い。その大きな背景には、経済的な困窮があるのだろう。しかし、問題は貧困だけではない。世代を越えた貧困の再生産である。

 

 こうした家庭環境は経済的な格差の固定化を助長する。家庭内暴力育児放棄などがあれば、子どもの学力は低下し、あるいは学業の道をあきらめることにさえつながる。つまり、子供が社会的上昇の場である教育の機会を失うことを意味する。さらには、それが職業選択の可能性を狭めてしまい、貧困の連鎖を生み出すのである。

 

これに歯止めをかけるのが、つながりである。ここでのつながりとは、礼儀やマナー、勉強など文化資本を提供してくれる存在であり、同時に自己の存在を承認してくれる人物との関係である。自己の存在を肯定し、さらにはその可能性を発展させるためにいろいろなことを教えてくれる存在が身近にいるかどうかは、その人の人生を大きく左右する。貧困の連鎖は単に社会保障を手厚くするだけで解決するわけではなく、背景には文化的な側面も関わっている。この文化の格差をどう解消していくかが教育の役割の一つなのだと思う。

 

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